イタリアを旅行中、現地の人が手を大きく動かしながら話している光景に驚いたことはないでしょうか。イタリアのジェスチャーは言葉の代わりとして使われるものも多く、意味を知っているかどうかで現地でのコミュニケーションの質が大きく変わります。
研究者によれば、イタリア人が言葉を使わずに共有できるジェスチャーは250種類にも及ぶとされています。そのすべてを覚える必要はありませんが、よく使われる定番のものと、うっかりやってしまうと失礼になるタブーな仕草だけは、渡航前に把握しておくと安心です。
この記事では、ポジティブな表現からネガティブな表現、日本人が間違えやすいタブーな仕草まで、場面ごとに整理して解説します。旅行や留学のための準備として、ぜひ参考にしてください。
イタリアのジェスチャーとはどんな文化なのか
イタリアでは「手で話す(Parlare con le mani)」という表現があるほど、ジェスチャーは日常のコミュニケーションに深く根ざしています。その発展には明確な歴史的背景があります。
約250種類のジェスチャーが存在するとされる理由
ローマ・トレ大学のイザベッラ・ポッジ教授の研究によれば、イタリア人が言葉なしに意思疎通できるジェスチャーは約250種類に及ぶとされています。これはヨーロッパの他の国々と比べても突出した数です。
ジェスチャーのひとつひとつには固有の意味があり、手の形・動き・速さ・表情が組み合わさって意味を構成します。指の位置が少し変わるだけで、「美味しい」が「クレイジーだ」に変わることもあるため、曖昧に真似するよりも意味をしっかり理解しておくことが大切です。
方言社会から生まれた歴史的な背景
イタリアが現在のかたちで統一されたのは1861年のことです。それ以前は多くの小国・王国に分かれており、各地の言葉はラテン語から独自に発展した方言のため、互いにほとんど通じない状態が続いていました。
言語の壁を越えて意思疎通する手段として自然に発達したのがジェスチャーです。現在もイタリアには豊かな方言文化が残っており、ジェスチャーはその補完手段として今でも活きています。
起源に関する4つの説
イタリアのジェスチャー文化がいつどのように始まったかについては複数の説があります。主に挙げられるのは次の4つです。
第1に、紀元前に古代ギリシア人がイタリア半島南部を植民地化した際に地元民とのコミュニケーション手段として広まったとする説。第2に、ローマ帝国末期に侵入してくる蛮族に内容を悟られないよう暗号的に使われ始めたとする説。
第3に、国家統一以前の方言格差を補うために市民の間で自然に発展したとする説。第4に、16世紀頃に生まれた即興演劇(Commedia dell’Arte)のパントマイムが庶民の間に広まったとする説です。いずれも決定的な証拠に乏しく、現在も諸説が共存しています。
南北イタリアでジェスチャーの使い方は違う
一般的に、イタリア南部(カンパーニャ州・カラーブリア州・シチリア島など)ほどジェスチャーの動きが大きく、頻繁に使われる傾向があると言われています。北部のミラノでも日常的にジェスチャーは使われますが、南部ほど激しくはないという在住者の声も多くあります。
これは南部の方言のリズムや抑揚の強さとも関係していると考えられており、動きの大きさは必ずしも教養や感情の度合いだけを示すわけではありません。テレビに出る政治家や聖職者も含め、老若男女がジェスチャーを使う点は共通しています。
歴史的には方言格差を補う共通手段として発展し、現在も日常の会話に欠かせない要素です。
渡航前に10〜15種類の定番ジェスチャーを覚えておくだけで、現地でのコミュニケーションがぐっとスムーズになります。
- イタリアのジェスチャーは約250種類に及ぶとされている(ローマ・トレ大学の研究)
- 国家統一(1861年)以前の方言格差を補う手段として歴史的に発展した
- 起源については古代ギリシア起源説・ローマ帝国説・方言補完説・演劇起源説などが諸説ある
- 南部ほど動きが大きく頻繁に使われる傾向があるが、北部でも日常的に使われる
- 手の形・動き・速さ・表情が組み合わさってはじめて意味が確定する
よく使われるポジティブなジェスチャー一覧
旅行中にすぐ使えるものや、現地の人に出会ったときに返せると喜ばれるポジティブなジェスチャーをまとめます。誤用を避けるために動作の正確さも押さえておきましょう。
美味しいを伝える「ブオノ」のジェスチャー
人差し指を頬に当ててグリグリと回す仕草は、イタリア語の「Buono(ブオノ)」=「美味しい」を表すものとして日本でも広く知られています。ただし、在住経験者の間では「実際の現地では頬グリグリはほとんど見かけない」という声も多くあります。
現地でより一般的とされるのは、親指以外の4本指をそろえて上に向け、顎の下あたりで上下に振る動作です。食事中に口が塞がっていても「美味しい」と伝えられるため、レストランでも使いやすいとされています。
日本でいう「ボーノ」という言い方はイタリア語の発音としては「ブオノ」が正確です。頬グリグリの仕草は相手によって伝わる場合もありますが、ニュアンスや年代によって受け取り方が異なるため、過信しないほうがよいでしょう。
「もう行こう・帰る」を表すジェスチャー
親指以外の4本指をピタッとそろえて伸ばし、手首のスナップを効かせて外側から自分の身体の方へシュッシュッと1〜2回振ります。これで「もう行こう」「帰りましょう」という意思表示になります。
このジェスチャーは観光地や駅など公共の場でもよく目にします。声を張り上げなくても遠くにいる相手に意図を伝えられるため、人込みの中で特に重宝されます。
「後で電話する」を伝えるジェスチャー
親指と小指を立て、残りの指を折り畳んで耳に当てる動作は「電話をかける」の意味です。これに人差し指を時計回りにぐるりと回す動作を組み合わせると「後で電話する」という表現になります。
遠くにいる人に呼びかけるときや、混雑した場所でのやり取りに使われます。日本でも同様の動作があるため比較的直感的に理解しやすい仕草です。声が届かない場所での連絡確認に使ってみるとよいでしょう。
「注意して・気をつけて」のジェスチャー
人差し指を片目の下に当て、軽く下に引くような動作は「よく見なさい」「注意しなさい」「騙されないようにしなさい」という意味を持ちます。観光地では地元の人がすりや詐欺への警戒を伝えるために使うことがあります。
日本の「あっかんべー」に動作が似ているため、意味を知らないと誤解することがあります。この仕草をされたときは悪意ではなく警戒を促している可能性が高いため、状況を確認するとよいでしょう。
| ジェスチャー名 | 動作の概要 | 意味 |
|---|---|---|
| ブオノ(現地版) | 4本指をそろえて顎下で上下に振る | 美味しい |
| 帰る・行こう | 4本指を合わせ、手首を手前へシュッと振る | 行こう・帰ろう |
| 後で電話 | 電話の手 + 人差し指を時計回りに回す | 後で電話する |
| 注意して | 人差し指を目の下に当てて軽く引く | 気をつけて・注意して |
- 「ブオノ(美味しい)」は頬グリグリより顎下で指を振る動作が現地では一般的とされている
- 「帰る・行こう」は人込みや騒音の多い場所でも遠くに意思を伝えられる便利な仕草
- 「後で電話する」は電話の手と指を回す動作を組み合わせて使う
- 「注意して」は日本の「あっかんべー」に似ているため誤解に注意
ネガティブな感情を表すジェスチャーの意味
イタリアでは怒りや呆れ、無関心、焦りなども手振りで表現されます。これらは悪意があるわけではなく、相手の感情状態を正確に読み取るためのサインです。
イライラ・「何を言っているんだ」のジェスチャー
手の指をまとめて開きかけの拳のような形にし、上下に数回クックッと振ります。片手でやることが多いですが、両手で行うことで意味を強調することもあります。在住経験者によると、これはイタリアで最初に目につくジェスチャーのひとつです。
「イライラしている」「そんなわけないだろう」「何を言っているんだ」「当然ノーだ」など、文脈によってニュアンスが変わります。いずれもネガティブな意味合いになるため、冗談として使う際は表情でフォローする必要があります。
注目すべきなのは、イタリア人がこの仕草を電話中や独り言のときにも無意識に行うことがある点です。相手が見えなくても感情を整理する手段として機能しているとも言われています。
「興味ない・どうでもいい」を伝える仕草
手の甲を上に向けた状態で指を軽くそろえ、顎の下から手前へさっさっと2回ほど払うような動作です。片手で行うことが多く、「Chissene frega(誰が気にするの)」という気持ちを表します。
完全な無関心を示すジェスチャーのため、会話の流れによってはそっけない印象を与えます。両手で行う場合はさらに強い不満や苛立ちのニュアンスが加わります。注意点として、このジェスチャーは「顎をかく仕草」に見えることがあるため、本当に顎が痒くてかいているつもりでも相手に誤解される場合があります。
「何言ってるんだ・まどろっこしい」を表す仕草
指先をそろえて束ねるように集め、その状態を保ちながら手を軽く自分の顔の方向に向けて2〜3回振ります。「何言ってるんだよ」「要領を得ない話だな」という感情を表し、日常会話でも非常によく使われます。
映画『ゴッドファーザーII』でロバート・デ・ニーロが使っているとされる仕草に近いもので、映画ファンには馴染みがあるかもしれません。感情が高まるほど振り方が大きくなる傾向があります。
「大丈夫・まあまあ」のジェスチャー
片手を水平に保ち、親指を下に向けてそのまま左右にゆっくり揺らす動作は、イタリア語の「Così così(コジコジ)」=「まあまあ・そこそこ」を表します。「体調はどうですか?」「料理はどうでした?」などの問いかけに対して、可もなく不可もないときに使います。
相手への礼儀として「良い」と答えたくても、正直には「まあまあ」のときに使える便利な表現です。言葉と一緒に使われることも多く、会話の正直なトーンを作る仕草のひとつです。
顔の表情とセットで意味が決まるものが多いため、動作だけでなく表情も合わせて観察するとニュアンスが読み取りやすくなります。
- 「イライラ・呆れ」は拳のような形の手を上下に振って表す
- 「どうでもいい・興味ない」は顎の下から指を前方に払う動作で示す
- 「まあまあ・そこそこ(コジコジ)」は手を水平にして左右にゆっくり揺らす
- 顔の表情がジェスチャーのニュアンスを補完するため、表情も合わせて確認するとよい
- ネガティブなジェスチャーでも冗談として使われる場合があり、文脈の読み取りが大切
日本人が間違えやすいタブーなジェスチャー
日本では何気なくやってしまう動作が、イタリアでは侮辱や挑発と受け取られることがあります。旅行中のトラブルを防ぐために、特に注意が必要な仕草を把握しておきましょう。
あごの下を払う「消えろ」のジェスチャー
あごの下に手を当て、前方に向かってはじくような動作は「消えろ」「あっちへ行け」という非常に攻撃的な意味を持ちます。相手を追い払う意図のあるジェスチャーで、喧嘩腰に受け取られます。
注意が必要なのは、これがうっかりあごをかく動作と混同されやすい点です。払う動作のスピードや方向が「かく」に似ているため、虫刺されや乾燥でかゆいときに無意識にやってしまうことがあります。イタリア在住経験者の中にも「あごが痒くてかいていたら止めるよう言われた」という体験談があります。
コルナ(牛の角)は文脈によって意味が変わる
人差し指と小指を立て、残りの指を折り畳んで「角」のような形を作る仕草を「コルナ(le corna)」と呼びます。これは2つの正反対の意味を持つため、使い方に注意が必要です。
ひとつは「不運を追い払う」おまじないとしての使い方で、誰かが不吉なことを口にしたときなどに使います。もうひとつは「パートナーを寝取られている人」を指す侮辱的な意味です。特定の相手に向けてこのジェスチャーを使うことは重大な侮辱と受け取られます。
「ロックンロール」のサインとしてイメージしている人もいますが、イタリアでは別の意味として機能するため、場の雰囲気や向ける方向に注意しておく必要があります。
傘のジェスチャー(最大級のタブー)
「gesto dell’ombrello(傘のジェスチャー)」と呼ばれる仕草は、イタリアで最大級の侮辱とされています。片腕を曲げてもう一方の手でその腕を叩く動作で、英語圏での中指を立てるのと同等か、それ以上に強い侮辱と見なされます。
過去には有名なサイクリングレースで優勝した選手がゴール直後にこの仕草を行い、大きな批判を受けて記者会見で謝罪したという出来事もありました。他の国でも似た動作はありますが、イタリアでは特にタブーの度合いが強いため、絶対に使わないことを覚えておいてください。
頭の横で指を回すと「クレイジー」に見える
日本でも「クルクルパー」に相当する仕草として知られていますが、イタリアでも頭や目の横あたりで指をくるくる回すと「あなたは頭がおかしい・クレイジーだ」という意味になります。
問題は「美味しい(ブオノ)」の頬グリグリと動作が非常に似ている点です。指を当てる位置が頬ではなく少し上(こめかみ・目の横あたり)になるだけで意味が変わります。人差し指を使った仕草は位置によって意味が大きく異なるため、使う前に位置を意識するとよいでしょう。
| 仕草の動作 | イタリアでの意味 | 注意点 |
|---|---|---|
| あごの下を手ではじく | 消えろ・あっちへ行け | あごをかく動作と誤解されやすい |
| 人差し指・小指を立てる(コルナ) | 不運払い または 侮辱(二重の意味) | 向ける相手によって意味が変わる |
| 腕を叩く傘のジェスチャー | 最大級の侮辱 | 絶対に使わない |
| 頭・目の横で指を回す | クレイジー・頭がおかしい | 頬グリグリと位置が近いため注意 |
- あごの下を前方にはじく動作は「消えろ」の意味で、かく動作と混同しやすい
- コルナは「不運払い」と「侮辱」の2つの意味を持つため、向ける方向に注意する
- 傘のジェスチャーはイタリアで最大級のタブーであり、使うべきでない
- 頭の横で指を回す仕草は「クレイジー」を意味し、頬グリグリとの位置の違いに注意
旅行・留学前に整理しておきたい実践ポイント
ジェスチャーの意味を知っておくことは、旅行者として現地のやり取りを読み解く力を高めます。すべて使いこなそうとするよりも「観察して理解する力」を育てることを目指すとよいでしょう。
まず意味を理解してから使う
イタリアのジェスチャーはひとつひとつの動作に意味があり、手の位置・速さ・表情が変わるだけで伝わるニュアンスが大きく変わります。旅行中に現地の人と会話する機会があれば、まずは相手のジェスチャーを観察することから始めるとよいでしょう。
自分から使う場合は、意味が明確なものに限定するのが安全です。「美味しい」「行こう」「電話する」など、ポジティブかつシンプルな仕草から試してみるのがおすすめです。誤ったジェスチャーを使っても、多くの場合は外国人と分かれば笑って許してもらえますが、タブーとされる仕草だけは事前に覚えておくことが大切です。
地域差を踏まえて観察する
南イタリアではジェスチャーの動きが大きく、頻繁に使われる傾向があります。ナポリやシチリアを旅する際は、特に身振り手振りが多い会話を目にする機会が増えます。一方、ミラノやボローニャなど北部では同じジェスチャーを使っていても動きは比較的コンパクトです。
旅行先の地域によって観察できるジェスチャーの印象も変わるため、「南に行くほど動きが大きくなる」という傾向を頭に入れておくと面白い発見があります。旅行記念として、気づいたジェスチャーをメモしておくのもよい楽しみ方です。
電話中もジェスチャーをするイタリア人
イタリア人は相手が目の前にいなくても、電話中に身振り手振りをすることがよくあります。ジェスチャーが言語と同様に身体に染み込んでいるため、無意識に出てしまうためです。電話しながら両手でジェスチャーをしようとして、携帯を肩と耳で挟んでいる光景も珍しくありません。
これはジェスチャーが単に「相手に見せるためのもの」ではなく、感情を整理し表現するための内発的な行為でもあることを示しています。言語としてのジェスチャー文化の深さを感じる場面として、旅行中の観察ポイントのひとつにしてみてください。
旅行で役立つジェスチャー学習の方法
渡航前の準備として、YouTubeなどの動画でイタリア人の実際のジェスチャーを確認しておくと、動作の感覚が掴みやすくなります。文章だけでは伝わりにくい「速さ」「力加減」「表情」を動画で確認できるのは大きな利点です。
また、イタリア語のフレーズとセットで覚えると記憶に残りやすくなります。たとえば「Buono(ブオノ)」と言いながら顎下で指を振る練習をしておくと、現地での会話でも自然に出てくるようになります。旅行まで時間がある場合は、5〜10種類を目安に意味と動作をセットで確認しておくとよいでしょう。
1. 傘のジェスチャー(腕を叩く動作)は最大級のタブーのため、絶対に使わない
2. コルナ(角の手)は向ける相手によって意味が変わるため注意する
3. あごをかく動作とあごはじきを混同しないよう意識する
- 最初は使うよりも観察して意味を理解することを優先するとよい
- ポジティブかつシンプルな仕草(美味しい・行こうなど)から使い始めるのが安全
- 南部(ナポリ・シチリアなど)ほど動きが大きく、地域差を観察するのも旅の楽しみになる
- 電話中もジェスチャーをするほど身体に染み込んでいる文化である
- 動画でジェスチャーを事前確認しておくと速さや力加減のイメージが掴みやすい
まとめ
イタリアのジェスチャーは、約250種類にも及ぶとされる独自の身体言語であり、19世紀の国家統一以前から方言の壁を超えるコミュニケーション手段として発展してきた文化的な背景を持っています。渡航前にポジティブな定番の仕草とタブーな動作の両方を把握しておくことで、現地でのコミュニケーションがより安心できるものになります。
まず取り組みたいのは、タブーとされる「傘のジェスチャー」「コルナ」「あごはじき」の3つを動画で確認して視覚的に覚えておくことです。これだけでも旅行中に誤解を招くリスクをぐっと下げられます。
知識として頭に入れておくだけで、現地の人のやり取りを眺めるのが何倍も楽しくなります。ぜひイタリア旅行の準備のひとつとして、ジェスチャー観察を楽しみにしてみてください。

